本研究では、これまで分からなかった電離圏E領域プラズマの3次元的な空間構造を明らかにすることを目的として、E領域に存在するマグネシウムイオン(Mg^+)からの共鳴散乱光を観測する気球搭載型イメージャを開発する。地球大気の電離圏E領域に、スポラディックE(Es)層と呼ばれる電子密度の非常に高い層が突発的に発生する現象がある。Es層には電子との再結合反応の遅いMg^+などの金属イオンが集積するため、Mg^+の3次元的な分布を知ることができれば、Es層内の電子密度の3次元構造がわかる。しかし、紫外域に輝線を持つMg^+の共鳴散乱光は、成層圏のオゾン層(高度25〜45km)による紫外光吸収を受けるので、本研究では到達高度50kmを越える高高度気球に搭載するMg^+共鳴散乱光イメージャを開発する。 本年度は、Mg^+共鳴散乱光観測からMg^+密度の3次元分布を推定する手法をシミュレーション計算によって検証した。朝夕の薄明時には太陽光の日陰境界線が刻々と変化するため、Mg^+による太陽光の共鳴散乱光を気球に搭載したイメージャで観測すると、Mg^+密度の3次元構造がスキャンされて得られる。計算の結果、観測されるMg^+共鳴散乱光の明るさは数100R程度で、オゾン層の吸収を避けるために必要な最低高度は40km、観測可能時間帯は太陽天頂角が95〜105°となる1時間程度であることがわかった。太陽天頂角の異なる時間に得られた画像の差分を得れば、鉛直分布が観測できることが示された。さらに、仮定したMg^+密度分布に水平方向の擾乱を与えることで、E領域プラズマの数十kmスケールの空間構造が充分に観測可能であることもわかった。以上の結果に基づいて、気球搭載型イメージャの光学系の検討を行い、仕様を決定した。これらの研究成果について、国内学会・シンポジウムで3件の研究発表を行った。
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