研究概要 |
すばる望遠鏡の赤外観測装置で取得した金星雲頂および成層圏の熱放射画像(波長8.6,11.3,17.6μm)から大気構造を求めるために、まず金星大気の放射輸送モデルを構築した。このモデルでは気体の振動回転遷移および連続帯による吸収、レイリー散乱、雲粒によるミー散乱が考慮されており、Adding-doubling法により多重散乱の計算を行う。雲と気温の平均的な高度分布を与えて雲頂から宇宙空間に放射される赤外放射のスペクトルを計算したところ、過去に観測されたスペクトルと矛盾がないことを確認できた。 次にこの放射モデルを用いて、金星大気から地球へ向けた熱放射の天頂角への依存性(周辺減光)が雲の鉛直構造にどのように依存するかを調べた。この結果をもとに、すばる望遠鏡で観測された画像での周辺減光のパターンをよく説明する雲パラメータを求めたところ、標準的とされる雲モデルに比べて雲頂付近の雲粒子のスケールハイトが若干大きいことがわかった。ただし地球から見て金星の西側と東側で周辺減光の程度が有意に違っており、これは雲の鉛直分布か、二酸化硫黄など赤外吸収物質か、あるいは大気温度に経度依存性があることを示している。 このような空間規模の大きな周辺減光を画像データから除去すると、より振幅の小さな微細構造が雲の中に埋め込まれていることが発見された。微細構造は低緯度では斑状、高緯度では帯状で、この帯状のパターンは紫外線画像に見られる模様と似ている。これらの空間スケールは300km程度で、振幅は0.5K程度である。
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