研究概要 |
白亜紀中期のセノマニアン期とチューロニアン期の境界では, 白亜紀でも最大規模の海洋無酸素事変が発生し, 海洋生物の多くが絶滅し, 黒色頁岩と呼ばれる特異な堆積物が厚く堆積したことが知られている. OAE2と呼ばれるこのイベントは, 急激な温暖化(赤道域で水温にして3~5℃)によって発生したことが指摘されているが, 具体的な無酸素水塊の発生プロセスについては明らかになっていないのが現状である. そこで, 今年度は, このOAE2の発生に伴う海洋環境の変化を明らかにするために, フランスと北海道に露出するOAE2時期の堆積物に対して高分解能で解析を行った. 今年度は, 昨年度までに採集した岩石試料からの微化石(浮遊性有孔虫化石と底生有孔虫化石)の抽出および同定と岩石に含まれる炭酸塩や木片の炭素同位体比の測定を行った. その結果, 両地域のOAE2の区間は一様に黒色頁岩あるいは有機物に富む地層が堆積していたわけではなく, 生物擾乱の発達する有機物に枯渇した層準が中部に1層準挟まれることが明らかとなった. 微化石と岩相解析の結果, 黒色頁岩あるいは有機物に富む地層では浮遊性有孔虫や底生有孔虫は産出しなくなり, 生物擾乱も全く見られないか, かなり弱くなることから, 酸素の欠乏がかなりの程度進んでいたのに対して, 生物擾乱の発達する岩相では, 大型の浮遊性有孔虫や底生有孔虫が多産することから, 酸素状態が良くなったことが示される. 炭素同位体比の測定により, 黒色頁岩の卓越する部分で炭素同位体比が正にシフトし, 生物擾乱の発達するOAE層の中部と最上部では負にシフトすることから, 両地域はの岩相は共にグローバルな炭素循環を反映していることも明らかになった. 両調査地域は当時, 大陸斜面域に位置していたことから, OAEによる主要な形成メカニズムは大陸斜面近傍の酸素極小域の拡大であることが明らかとなった.
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