研究概要 |
地震波の伝搬過程において,"なぜ断層面沿いの摩擦係数が低下したのか"について,実際に地震のときに滑った岩石の採取およびその分析を通して,その謎を物質科学的側面から解明することが重要である.そこで,台湾チェルンプ断層掘削プロジェクト(TCDP)が立ち上がり,2004年より開始された.TCDPでは2本の掘削が行われた.本申請研究では,そのうちの2本目(HoleB)の全掘削コア試料(深度950-1350m)を高知コアセンターに運び,一連の非破壊連続物性計測を実施した.その結果の概要を以下に記す. (1)掘削コア試料の非破壊連続物性計測の結果 HoleBでは,チェルンプ断層系として3帯の断層帯が確認された.浅部より,1136m断層,1194m断層,1243m断層と呼ばれる.3帯の断層帯とも,中軸部より黒色ガウジ,灰白色ガウジ,breccia帯,fracture-damaged帯が発達する.物性計測結果での大きな特徴としては,黒色ガウジにおける高い帯磁率と低い密度である.前者の原因としては,剪断に伴う磁性鉱物の細粒化もしくは昇温に伴う新たな磁性鉱物の生成が考えられる. (2)BM diskの分析結果 1194m断層と1243m断層では,黒色ガウジに隣接して黒色のディスク状の物質(BM disk)が認められた.SEMでの観察の結果,hourglass構造が認められた.これは溶融の証拠として考えられるため,BM diskはシュードタキライトとして認定できる.また,同試料における炭素分析の結果,周辺のガウジ部と比較して,無機炭素量の減少が認められる.これは炭酸塩鉱物の消失によるものと考えられ,さらにこの要因としては,地震時の摩擦発熱による熱分解によると考えられる.一方,帯磁率ポイントセンサーでの帯磁率測定の結果,BM diskでの高い値が認められた.これは,上述と同じ要因であろう.
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