研究概要 |
海-陸境界域における海底への有機物の堆積過程は,気候変動や海水準変動に伴う陸域の地形・環境の影響を受けると予想される.本研究では,更新世後期から完新世の海底堆積物中に保存されている有機物の起源と量を定量的に見積もり,海底堆積物の形成過程との関連を明らかにする事を目的とする. 今年度は,熊野トラフ東部深海底堆積物について,東京大学海洋研究所に設置されている元素分析計と質量分析計を使用して,堆積物の有機炭素量および安定炭素同位体比を測定した.有機物の起源を特定するため,安定炭素同位体比測定結果を,すでに蛍光顕微鏡観察により求められた堆積有機物組成と比較した.一方,堆積物コア試料に含まれる有孔虫化石を用いて得られた放射性炭素年代測定(外注分析)結果から,堆積物の形成年代・堆積速度を見積もった.東京大学海洋研究所に設置されているヘリウム置換式ピクノメーターを用いて堆積物の密度と間隙率を測定し,これらの結果と,堆積速度,有機炭素量,安定炭素同位体比から有機炭素の起源ごとに沈積流量を見積もった,同様の測定を,タービダイトが認められない同時代の遠州トラフの堆積物についても行い,タービダイトを含む熊野トラフ東部海底扇状地周辺堆積物の結果と比較した. タービダイトを含む堆積物と含まない堆積物とで,後氷期の陸起源有機物の割合の変化は同じ傾向を示した.すなわち,約14,000年前以前は両者ともに陸源有機物の割合が高く,最大22%の差でタービダイトを含む方が陸起源有機物の割合が高い.約14,000年前から9,000年前までの間に陸源有機物の割合は減少し,両者の差も減少する.約9,000年前以降は有機炭素全体に占める陸起源の割合は10〜19%にまで減少し,その割合は両者でほぼ一致する.これらの結果は,海水準上昇による海盆底への陸起源物質の供給変化は,海底谷に連続し混濁流によって陸から直接砕屑物が運搬される海底扇状地だけでなく,海底谷に連続しない海盆でも起きていたことを示す. 以上の成果の一部は,2006年8月に福岡で開催されたISC(国際堆積学会)2006で発表された.
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