| 研究概要 |
石灰質有孔虫類の殻に含まれるマグネシウムの量は,石灰化時の水温を反映することから過去の水温の指標として応用されつつある.一方で,殻のマグネシウム-カルシウム比(Mg/Ca)は石灰化時の水温だけではなく,結晶の材料となる母溶液中のMg濃度,Ca濃度,pH,及びアルカリ度によっても変化することがわかっているが,有孔虫の石灰化中に細胞内環境の時系列的な変化を観測した例はほとんど無かった.本研究では,殻の組成と細胞内環境を比較するために,顕微鏡下で有孔虫の石灰化過程を連続的に観察すると同時に,細胞内の化学環境のモニタリングを行い,細胞内の環境と殻中の元素分布の比較を行うことを目的としている.
これまでに,顕微鏡下で有孔虫細胞内のpH環境を測定する実験系を立ち上げ,陶器質石灰質有孔虫を用いて石灰化の際の細胞内のpHの計測に成功した.実験では,生きている有孔虫を堆積物中から拾い出し,石灰化を促すために殻の一部をわざと破壊した.その後しばらく培養を続け,偏光顕微鏡で観察すると,炭酸カルシウムと見られる結晶が細胞内の様々な位置で石灰化が始まることがわかる.石灰化を確認した後,速やかに微小pH電極を細胞内に挿入し,石灰化部位におけるpHの変動を記録した.実験の結果,普段は細胞内のpHは海水よりもわずかに低いが,石灰化が始まると細胞内のpHは9.0付近まで上昇し,それは石灰化が終わるまで続くことがわかった.今後は計測例数を増やし結果の信頼性を増すと共に,殻の元素組成マッピングを行う計画である.
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