研究概要 |
本研究の目的は,琉球列島及びグレートバリアリーフに広がるサンゴ礁とその周辺堆積物が,第四紀中期のどのタイミングで,どのような海洋表層環境(特に水温)の変動が原因でサンゴ礁の成立・拡大が促されたのか,高精度マイクロミル装置および殻のMg/Caを用いた微小領域解析によって検証することにある.本年度は,大きく下記の2つの成果が得られた. (1)マイクロミルシステムと粉体回収装置による酸素・炭素同位体比分析法の確立 マイクロミルシステムの制御方法(特許第4203860:今年度の成果)の洗練,単結晶ダイヤモンドを用いたドリルビットの開発,および微小粉体回収装置(>10μgの粉末が対象.<10μgの粉末は要検討)との組み合わせによって,従来技術では不可能であった有孔虫の各殻単位のドリリングとその酸素・炭素同位体比測定を確立した. (2)浮遊性有孔虫のMg/Caの保存性と古水温推定 低マグネシウム方解石殻の微量元素の保存性を検討した結果,陸水性続成作用を被った炭酸塩岩中においても,浮遊性有孔虫殻には,殻内有機膜(POM)と呼ばれる初生の殻内部構造が保存されており,浮遊性有孔虫殻のMg/Caには初生値が保存されていることが確認できた.ただし,Mg/Caを分析する際には,従来のICP-MSによる測定法では,浮遊性有孔虫殻の殻(内)表面に付着したMgを含んだ微細な続成生成物の影響を被るのに対して,樹脂に封入した浮遊性有孔虫殻の断面を観察しながら,EPMA(X線マイクロアナライザ)を用いた殻内部のスポット分析によるMg/Ca測定法が有効であることが明らかとなった.EPMAの結果として,琉球層群のコア試料(CR-13:宮古島沖)およびグレートバリアリーフのコア試料から産出した水温は第四紀中期の温暖化を示唆していた(約1.5℃).最終年度で得られた以上の結果は,第四紀における全球的な表層水温の変遷・炭素循環において重要な新知見である.
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