地球惑星物質に微量に存在する希ガスは、存在量や同位体組成から、地球層構造進化や地球内部構造・損石をはじめとする地球外物質の起源や履歴といった情報を与える重要な物質である。一方で、その希ガス原子が固体物質中にどのような状態で存在しているかはまだ明らかでない。地球惑星物質内での希ガス近傍の局所構造解析を目的に、本年度は以下の事を行った。(1)、昨年度合成した希ガス(Kr)を圧入した試料の脱ガスパターンの測定を行った。実験は質量分析計を用いて、300℃〜1800℃の温度領域で、脱ガス温度、脱ガス量を計測した。(2)、Photon Factory BL-12Cにて、KrのK吸収端近傍の蛍光XAFS測定を行った。(3)、(1)で得られた、温度-説ガス量の測定結果を元に、heat of adsoiption △Hを計算した。その結果、同じSiO_2組成の物質であっても、quartz、coesite、stishoviteの順で△H7は大きくなり、希ガスが脱ガスする際に要する熱量は、合成圧力が高ければ高いほど大きいことが分かった。また、stishoviteとolivineでは、脱ガスに80 kJ/mol以上の熱量を必要とすることがわかった。 これまで、高圧鉱物内に希ガスは存在せず、表面吸着でしか存在し得ないという考えが支配的であったが、(3)の高圧鉱物ほど脱ガスに高い熱量を必要とするという結果は、希ガスが表面のみではなく格子中にも存在する可能性を示唆するものである。また、高圧鉱物の△Hの値からは、化学吸着と同等あるいはそれ以上の比較的強い相互作用でKrが鉱物中に取り込まれている可能性が考えられ、従来、不活性でありファンデルワールスカでしか物質と作用し得ないと考えられていた希ガスは、これまで考えられていたよりも強い相互作用で鉱物中に存在していると考えられる。
|