研究概要 |
本課題では,天然に産する唯一の20面体微粒子集合体である20面体フランボイダルパイライト(以下,FP)の構造意義,および形成条件や自己組織化作用について鉱物学的,結晶学的見地より検討を行った.本年度は,新潟県白根市産の20面体FPについて後方散乱電子線回折法を用いた結晶方位分析を行い,20面体構造を構成する4面体ユニット内においてマイクロクリスタル(以下,MC)が,互いに直行する2方向の格子選択配向を示すことを確認した.選択配向は,ユニット内で立方充填したMCの幾何学的特徴(4回対称)に由来しており,20面体構造がMCの凝集プロセスによって形成されたことを裏付けた. また,世界各地より集めた20面体FPについて微細組織観察を進めたところ,フランボイドの最外殻に位置するMCに,不完全成長痕や中空構造(溶解痕)が認められることを明らかにした.これらの痕跡は,FP形成時に,FPと周囲の溶液との界面に極めてシャープな化学濃度勾配(FeSやH_2S,HS^-などのイオン濃度勾配)や物理的な被覆物質(バイオフィルムなど)が存在していたことを示唆する重要な証拠である.また,これらが多くの20面体FPに共通して認められることから,FP/溶液界面における物理化学的障壁の存在が,20面体構造の形成に大きな役割を果たしている可能性が示唆された.実際,単分散コロイド系における研究では,不混和境界面を持つ2液体がコロイド粒子に求心力(凝集力)を与え,さらにその凝集物が高次の対称性を示す例が知られており,20面体FPの形成も同様のメカニズムで説明できるかもしれない.これらの成果は,地球惑星科学連合大会にて発表され,国際誌へも投稿される予定である. また,天然におけるパイライト,FeS_2の前駆体物質と考えられるFeSについても,高温高圧下における物質化学的挙動を実験的に調べ,その成果を2編の論文にまとめた.
|