研究概要 |
中性子を用いてプロトンの微視的挙動を解明し、宇宙に存在する氷結晶およびクラスレートハイドレート(Clathrate Hydrate: CH)におけるプロトンの秩序条件を推定した。本年度は、昨年度予算で製作した中性子回折測定用の高真空試料チャンバーを研究用原子炉施設JRR-3に設置し、中性子回折の実験を実施した。中性子回折の精密な解析に基づいて、プロトンの秩序状態の詳細を解明した。本研究により、氷およびCHのプロトン秩序化に必要な温度条件が明らかになった。また、秩序化によって発生した特異な強誘電的性質が惑星形成に及ぼす影響を考察した。強誘電性氷粒のmigrationのメカニズムを中性子線と顕微鏡を用いて調べた。 本研究成果に基づくと、プロトン秩序氷は水分子単層当り約1mVの電位差を有すると推定される。従って、原始太陽系星雲のように水分子濃度の低い状況で凝集した厚さ0.1mm程度のプロトン秩序氷の塵が有する電位差は1万ボルトにもおよぶ。上記の結果をまとめ、氷粒の間では重力を凌駕する強いクーロン力が働き、惑星形成が従来の予測よりも著しく速くなる可能性を提唱した。 本提唱は、米国サイエンス誌(Editor's Choice, Science 315,p.18,2007)や海外のインターネットサイト、国内の新聞報道(2007年7月10日掲載,東京新聞24面)等で取上げられた。日本惑星科学会、日本中性子科学会の会誌にて日本語の解説文を発表し、中性子科学会や複数の研究会で依頼講演を実施した。また、科学番組サイエンスチャンネルの取材に協力する等、成果のアウトリーチ活動に努めた。
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