研究課題
天然の断層岩における年代測定は、断層岩に含まれる鉱物の熟成度が断層の摩擦運動度及びその摩擦熱によって異なり、全溶融したものかどうかの判断が難しいため、容易に正しい年代を得ることはできない。断層岩は原岩の熱変成及び摩擦による変形破壊を複合的に反映しているため、摩擦・変形破壊をむしろ単純化した再現実験で検討し、年代の若返りメカニズムを解明していきたいと考えている。また、天然の岩石はすでに固結した地殻形成岩石により周囲を覆われているので、大気〜マントルまでの組成範囲の中間的な希ガス同位体比を持っている。完全に溶融し大気と希ガス同位体比が平衡にならない限り完全な年代のリセットは起きない。希ガスは、化学的に他の物質と結びつきにくい特徴があり、ガスの出入りは破壊のみでも起こりうるが岩石中に閉じこめるためには溶融後固結しなければならない。この点で、他の元素に比べ物質移動がより検出しやすいと考えた。今年度はカリウムーアルゴン年代のリセットに視点を置き、希ガス同位体測定法を用いて大気と希ガス同位体比が平衡になっていくのかを溶融ガラス、溶融面付近、原岩の三つの部分について分析を行った。下部地殻を代表するハンレイ岩を原岩(出発物質)として、高速摩擦溶融実験を行い、その実験後の岩石およびその生成物(溶融ガラス、溶融面付近、原岩)について、希ガス同位体測定を行った。溶融ガラスは、摩擦溶融時に1100度に達していたため完全にガラス化しており、得られたアルゴン同位体比については、大気と平衡になっており、カリウムーアルゴン年代のリセットが確認された。しかしながら、溶融面付近については、クラストと呼ばれる岩石破砕物がガラス中に含まれているため、一見して熱による同位体分別を起こしているような分析データとなり年代の若返りとして検出されることがわかった。しかし、実際は破砕物に原岩のガスが残っているために同位体分別として見えた可能性が高い。これについては、原岩の岩片と、摩擦破砕し再溶融していない破砕岩片の対照実験を行い詳細な検討が必要であると考えている。
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GoldSchmidt 2007, Geochimica et Cosmochimica Acta 71(未定)
