研究概要 |
今年度は京都産業大学の村瀬篤教授との共同研究により、我々が「荒川リフト」と呼んでいる符号(1+,1-)の四元数ユニタリー群Sp(1,1)上の保型形式について、そのフーリエ展開の明示公式を与えることができた。荒川リフトは楕円尖点形式と定符号四元数環上の保型形式の組かちの「テータリフト」という操作で構成され、「無限素点で四元数離数系列表現を生成する」という表現論的特徴付けを持つ。このテータリフトとはテータ級数による保型形式の構成の一般化と見倣し得るものである。 今回得られた結果についてもう少し詳しく説明する。四元数ユニタリー群Sp(1,1)上の保型形式のフーリエ展開の和は、定符号四元数環の純四元数の集合で番号付けされる。そして0でない各純四元数tで番号付けされるフーリエ係数は、tが生成する虚2次体が定めるトーラス群上のユニタリー指標に関して更に展開できる。この度得た我々の結果というのは、荒川リフトの通常の意味でのフーリエ係数をこのような虚2次体に付随するユニタリー指標に関して更に細かく展開し、その各展開係数をリフトされる楕円尖点形式及び定符号四元数環上の保型形式の、ユニタリー指標に関するフーリエ変換、つまり「トーラス積分」という数論的不変量の観点から具体的に表示したということである。 このトーラス積分という不変量は、フランスの保型形式の専門家バルズブルジェの結果によりその2乗ノルムが保型L関数の特殊値と適当な比例定数を掛けると一致することが知られている。つまり我々の結果というのは、上で述べた展開係数の2乗ノルムが、楕円尖点形式のL関数の特殊値及び四元数環上の保型形式のL関数の特殊値による積と適当な定数倍を除いて等しいことを意味している。つまりこの度得た結果というのは、荒川リフトのフーリエ係数の数論的意義が持ち上げられる2つの保型形式のL関数の観点から説明できることを物語っている。
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