研究概要 |
今年度は、(1)荒川リフトのフーリエ係数と保型L関数の中心値との関係、(2)Sp(1,1)のアイゼンシュタイン級数のフーリエ係数の明示公式、(3)四元数離散系列表現に対する一般化ホウィッタカー関数の明示公式、以上の3つを研究対象とする計画であった。 最も進展が認められたのは(1)である。前年度までに得た荒川リフトのフーリエ係数をトーラス積分の積により表す明示公式の応用として、まずそのフーリエ係数の2乗ノルムが楕円カスプ形式と定符号四元数環上の保型形式に対するランキン-セルバーグL関数の中心値の積と、具体的に書ける比例定数倍の下関係するという公式を、楕円カスプ形式がレベル1でヘッケ指標が不分岐の場合に得た。更にこの公式について研究を進めた結果、この2乗ノルムは荒川リフトと虚2次体のヘッケ指標に付随する次数8のランキン-セルバーグL関数の中心値と関係するという公式に辿り着くことができた。これはベヘラーと古澤-シャライカによる予想が成り立つ例を、非正則保型形式で具体的に与えた最初のものと思われる。 (2)については、符号(2, q)のユニタリー群U(2, q) の場合について、明示公式の様々な計算を試みたが、結果的に極大ユニポテント群の指標に付随する場合にのみ明示公式を得るに留まった。意義という点では、自明な指標の場合、四元数離散系列表現の主系列表現への一意的埋め込み問題への応用がある。しかし、当初のフーリエ展開の理論の構成という目的からするとまだ不十分である。そして(3)についても進展は見られなかった。この(2), (3)については今年度から始まる新たな研究計画の下、引き続き推進する予定である。
|