研究概要 |
研究代表者らはこれまでに、表面力測定、ATR-FTIR、吸着等温線測定を組み合わせた新規方法論を用い、2成分液体中のシリカ表面に吸着したアルコール,カルボン酸などの、水素結合による厚み数10nmの規則構造形成を見いだしている(界面分子マクロクラスター)。本研究課題では、分子マクロクラスター吸着層の接触・橋かけにより生じる長距離引力とクラスターのダイナミクスとの相関を分子レベルで理解し、微粒子の分散制御などへの応用指針を示すことを目的とした。 前年度に、金表面上に調製した末端にOH基をもつアルカンチオール誘導体の自己組織化膜表面を用いた表面増強全反射赤外吸収スペクトル測定を開始し、界面の近傍(〜10nm以下)の評価が可能となった。 本年度は、表面増強全反射赤外吸収分光法により、エタノールーシクロヘキサン2成分液体中でOH基修飾表面に吸着し、クラスターを形成したエタノールのダイナミクスの評価を行った。エタノール濃度0.1〜0.3mol%では、吸着エタノールのOH伸縮振動(νOH)ピークは、結晶状態のピーク波数である3200cm^<-1>付近に観測され、安定な鎖状クラスター形成が示された。エタノール濃度0.5〜3.0mol%では濃度上昇に伴いνOHピークは高波数シフトし、液体状態のピーク波数に近づいたことから、エタノールの分子運動性の増大が示された。これは、吸着層接触による引力の減少・消失は、エタノール分子の運動性の増大に伴う吸着層-バルク界面エネルギー減少によるという説明に対する明確な実験的根拠である。これは、従来数多く行われていたマクロな測定では知られていなかった吸着液体のダイナミクスを明らかにしたものであり、微粒子間相互作用、分散安定性、集積制御に対して実験に基づいた指針を与えるものである。
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