昨年度までの研究において弾性表面波(SAW)による格子変位効果をC=0二重結合を選択的に水素化することが難しい、α、β-不飽和アルデヒドの水素化反応に応用し、薄膜触媒に伝搬するSAWによる格子変位効果が、SAW伝搬路上に接合した酸化ガリウム薄膜表面の格子を強制的に変位させ、薄膜表面に露出しているルイス酸点の酸強度を著しく増加させる効果を持つことを明らかにした。本年度は更に本手法を発展させ、弾性表面波素子触媒に対し最適な構造をもつ弾性表面波素子組み込み型マイクロリアクターを設計・作製し、有機化学反応で重要なアルドール縮合反応を液相で行う系に適用した。アルドール縮合反応は、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム(III)をSAW伝搬路上へ接合し、ベンズアルデヒドおよび1-(トリメチルシリルオキシ)シクロヘキセンをリアクター内に注入する事により反応を行った。反応生成物をガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いて分析を行ったところ、目的生成物である2-Benzylidene cyclohexaneの生成量が、触媒にSAWを伝搬させることにより著しく増加した。これは弾性表面波によってSAW伝搬路上に発生する格子変位効果により、伝搬路上に接合した触媒の活性が著しく増加したため、触媒反応が進行したためであると考えられる。本研究から、液相反応に対する固体の触媒作用に及ぼす弾性表面波効果の機構を明らかにし、液相有機合成反応の制御に対する弾性表面波素子組み込み型マイクロリアクターシステムの有用性を確立した。
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