研究概要 |
本年度は、酸素運搬蛋白質であるヘモシアニンの可逆的な酸素結合能に関して密度汎関数法を用いて調べた。ヘモシアニンは軟体動物や甲殻類の血液に含まれ、その活性中心は二核の銅イオンを含みヒスチジンが3個ずつ配位している。以前の我々の研究(Takano, Y. et al. Chem.Phys.Lett. 2001,335,395-403)ではヒスチジンをアンモニアに置換しだ従来の理論計算モデルではその酸素の結合エネルギーが小さいこと、一方初めてヘモシアニンの酸素結合構造(Cu(μ-η^2:η^2O_2)Cu構造)を再現した合成モデル[Cu(HBpz_3)]_2(O_2)(HBpz_3=hydrotris{3,5-diisopropyl-pyrazolyl}borate)(Kitajima et al. J.Am.Chem.Soc. 1989,111,8975-8976)では不可逆的に酸素を結合することから、銅イオンの配位子が酸素結合の制御に重要であると考えられる。そこで、銅イオンの酸素結合における配位子の効果を明らかにするため、様々な配位子を用いたヘモシアニンのモデルを考え密度汎関数法による理論計算を実施し配位子効果を調べた。配位子としてはアンモニア、ヒスチジンの側鎖であるメチルイミダゾール、HBpz_3を用いた。その結果、配位子は銅イオンの軌道エネルギーを制御しており、アンモニア、メチルイミダゾール、HBpz_3の順に酸素結合に関わる銅のd軌道エネルギーが酸素のLUMOに近づいていった。この軌道エネルギーの準位が近づくほど酸素との軌道相互作用が大きくなり酸素結合性に違いが生じていることがあきらかとなった。ヒスチジンは結合できないアンモニアモデルと不可逆な結合をするHBpz_3モデルの中間にあり、このことが可逆的な酸素結合を発現するものと考える。
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