金属と生体分子との相互作用を理論的に解明するためには金属の複雑な電子状態とそのまわりに配位している生体分子を取り扱う必要がある。しかし系のサイズが大きく多様な電子状態を示すため理論計算による取り扱いが難しい。 そこで、本年度は多核金属タンパク質の活性中心の化学結合様式を密度汎関数法により詳細に調べるためのスキームを提案し、それを酸素運搬蛋白質であるヘムエリスリン、ヘモシアニンの酸素結合脱離時における金属活性中心に適用した。多核金属タンパク質の活性中心を密度汎関数法を用いて取り扱うためには汎関数の適切な選定が重要である。その指標として活性中心の磁気的相互作用に着目した。まずは様々な汎関数を用いて磁気的相互作用を計算し、実験で得られた値と比較したところ、二核の金属活性中心ではB2LYP法が最良の汎関数であることがわかった。次にそれを用いて得られたヘムエリスリン、ヘモシアニンの酸素結合脱離時の電子状態に対する自然軌道解析およびeffective bond order解析から二核金属活性中心は、ヘムエリスリンではμ-O架橋配位子を介したδ、π型の軌道相互作用を、ヘモシアニンではμ-η^2η^2:O_2架橋配位子を介したδ型の軌道相互作用をしていること、周りのタンパク質は活性中心の構造をひずませることで軌道相互作用の強さを制御していることを明らかにした。また活性中心に配位する配位子の化学的性質は金属の軌道エネルギーを制御しており、その性質により酸素結合に関わる金属のd軌道エネルギーが大きく変化した。この軌道エネルギーの変化は酸素との軌道相互作用と大きく関わり、酸素結合性に違いが生じることが明らかとなった。このことからタンパク質により誘起される活性中心の構造ゆがみ、活性中心・に配位するアミノ酸残基の電子構造の双方が活性中心の電子状態に大きく影響しそのバランスにより機能発現を導かれると考える。
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