研究概要 |
複数の分子を組み合わせることで形成される組織化分子配列系で進行するエネルギー・電子移動反応などの励起ダイナミクスについて時間・空間分解分光法を用い,時間発展と空間分布の階層性を明らかにすることを目的として研究を行った.対象とした系はDNA二重らせん中にアクリジンオレンジ(AO)を固定化した分子配列系薄膜(AO/DNA薄膜)である.参照媒体としてポリビニルアルコール(PVA)を用いDNAの分子分散性・配列能について比較検討を行った.AO/DNA薄膜の吸収スペクトルからAOの会合体形成はほとんどなく,励起子生成が観測されない程度の弱い相互作用系であることがわかった.AO/DNA薄膜においてAOの存在比を増加させても蛍光スペクトル形状の変化は観測されなかった.しかしながら,AO/PVA薄膜においては存在比が増加するにつれてAO単量体の発光とともにより長波長領域に高次会合体に由来する発光が観測された.光励起ダイナミクスについて検討するために蛍光寿命測定を行った.AO/DNA薄膜の蛍光寿命はAOの存在比が増加するにつれて減少した.三成分指数関数を仮定し解析したところ寿命0.45,1.7,および5.14nsで再現された.DNA薄膜中のAOの存在比が増加するにつれて,寿命1.7nsの成分比は増加し,一方5.14nsのそれは減少した.これは,励起エネルギーがAO分子間で伝達し,系内に極微量存在するトラップサイトへ捕捉されたためと考えられる.この過程を直接的に検証するため,蛍光異方性減衰を測定した.AOの存在比が増加するにつれて異方性緩和の時定数は小さくなり,異方性の一定値は減少した.以上のことから,AO分子間でエネルギー移動が進行していると結論付けた.DNA一次元鎖を鋳型として組織化された分子配列系は高効率エネルギー輸送媒体となることが確認された.
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