平成18年度は、標的となるヘテロクラスターを生成するために必要な、クラスター発生装置の設計・製作ならびに予備実験を行った。本年度に実施した研究の概要は、以下の通りである。 (1)ヘテロクラスターを生成するために必要な、ピックアップ型クラスター源の設計・製作を行った。数10〜数100量体の希ガスナノクラスターを生成するため、液体窒素温度まで冷却可能なノズルを製作した。また、生成した希ガスクラスターに標的分子をピックアップ法により吸着させてヘテロクラスターを生成するためのノズルも製作した。製作したクラスター源はSPring-8/BL27SUに設置されている実験チェンバに配備し、オフラインにて冷却能力の評価ならびに装置の調整を行った。 (2)SPring-8/2006B期の後半に、放射光を用いた測定を開始した。試料には、希ガスナノクラスターとしてアルゴンクラスターを、標的分子としてアセトン分子を選択した。生成したクラスターに対して、軟X線吸収分光法ならびに光電子光イオン光イオン同時計数法を用いて評価実験を行い、アルゴンクラスター上にアセトン分子が吸着したヘテロクラスターが生成されていることを確認した。また、内殻励起されたヘテロクラスターからは、クラスター内電荷移動が非常に高い確率で進行し、アセトンからフラグメントイオンが大量に放出されることが、予備実験より明らかになった。 (3)生成物イオンの運動エネルギー分布測定に必要な予備実験として、アルゴンクラスターならびにアセトンクラスターの光解離実験を行った。結果、クラスターのサイズならびに励起サイトの違いによって、解離生成物の運動エネルギー分布が大きく異なるという結果が得られた。本結果は、励起されるクラスターのサイズ・サイトによって、内殻正孔緩和後にフラグメントに分配される運動エネルギーが異なることを示唆しており、本手法がクラスターの内部緩和過程を観測するための有力な手段となることが確認された。
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