本研究では、らせん型化合物ヘテロヘリセンとDNAとの相互作用に関して調べ、新規な物性の発現を目指すことを目的としている。本年はヘテロヘリセン誘導体のテロメラーゼ阻害活性を中心に研究を行った。 DNA末端に存在するテロメアやテロメアを延長する酵素であるテロメラーゼは、細胞の老化や不死化に対して重要な役割を担っており、ガン化にも密接に関連していると考えられている。ヒトテロメア配列のGカルテットの複合体を安定化する小分子はテロメラーゼの作用を阻害するため、副作用の少ない抗ガン剤への応用が期待されている。 これまでのわれわれの研究で、光学活性な環状型ヘテロヘリセン分子がGカルテット構造間にはまり込んで結合し、エナンチオ選択的にテロメラーゼ活性を阻害する事を見出した。ヘリセン部位の両末端を結ぶスペーサーを長くして、らせんピッチを広くすると、阻害活性が顕著に減少することから、らせんのピッチが狭く環状化合物であることが重要であると考え、より平面化合物に近い[5]ヘテロヘリセンから類似の化合物を合成した。しかし、この化合物にはテロメラーゼ阻害活性はほとんど見られなかった。今後は、特異的にテロメラーゼ阻害活性の発現している[7]ヘテロヘリセンの環状誘導体に新たな置換基を導入し、阻害活性の変化を見る予定である。 また、ヘリセンの分子バネの性質に着目して、複数のヘリセン分子を共役結合でつなげてその物性を調べたところ、その比旋光度が格段に上昇することを明らかにした。
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