研究概要 |
2007-2008年度の研究成果として, ジアリールエテンのフォトクロミズムが導電性や材料の蛍光特性を可逆的に光スイッチングできることを明らかにしてきたが. 最終年度はフォトクロミズムによる分子構造変化が物性変化に及ぼす影響について検討を行った. 対象とする材料としてジアリールエテンジチオール誘導体を用いた金ナノ粒子ネットワークを合成し, ナノギャップ電極間に結合させた構造体についての導電性評価を行った. ジアリールエテン骨格は(1)閉環体のときに共役鎖が繋がり, 開環体で共役鎖が切断される系, (2)閉環体のときに共役鎖が切断され, 開環体で共役鎖が繋がる系の2通りを検討した. この分子設計として新たな点は, ジアリールエテンのアリール部のチオフェンの導入位置(2-位または3-位)を変えた異性体を用いることで分子のサイズを変えることなく上記条件を満たす分子にできることである. これにより, 共役鎖の変化だけを対象とじた物性の変化を評価することが可能になった. 実験結果としては, 両分子とも分子の共役鎖が繋がった状態での導電性は切断した状態よりも高く, 当初予想していた, 分子レベルの導電性に共役鎖の結合状態が関与している点を実験的に裏付けることができた. また, 繰り返し耐久性の高い2-メチル-3-ベンゾ[b]チエニル基置換ジアリールエテンのジチオール誘導体を新たに合成し, ナノ粒子ネットワーク作成後に導電性を評価したところ, フォトクロミズムに伴う導電性変化が従来よりも明瞭かつ可逆的に観測された. 今後の更なる改良によって, 分子スケールの情報伝達デバイスとして応用展開が期待できると考えられる. この成果を報告したJ. Phys. Chem. Cの論文内容は, Nature Asia Materialsのfeatured highlight(2009年1月7日)として掲載された.
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