触媒量のPd(PPh_3)_4またはPd(CH_2=CHCO_2Et)(dppe)の存在下、重ベンゼン中、室温下で、MoHCp(CO)_3またはWHCp(CO)_3とエチレン、アクリル酸エチル、アクリロニトリル等との反応を行ったところ、挿入反応が速やかに進行し、対応するアルキル錯体が得られた。Pd(PPh_3)_4を触媒とした場合には、MoHCp(CO)_3のフマル酸ジメチルおよびマレイン酸ジメチルなどの二置換アルケンへの付加反応も進行した。また、触媒量のPd(PPh_3)_4存在下、WHCp(CO)_3とアセチレンやアセチレンジカルボン酸ジメチル(DMAD)との反応も進行し、シス付加により生成したと考えられるアルケニルタングステン錯体W[C(CO_2Me)=CH(CO_2Me)]Cp(CO)_3が得られた。WDCp(CO)_3とアクリル酸エチルとの反応では、WDCp(CO)_3の重水素とアクリル酸エチルのgem-水素との間での速いH-D交換が観測された。さらに、アクリル酸エチルとWHCp(CO)_3との反応における予備的な速度論的な検討から、本反応の反応速度はアクリル酸エチルの濃度には依存せず、WHCp(CO)_3の濃度にのみ依存することも明らかとなった。本触媒反応は、ヒドリド錯体のPd(0)への酸化的付加により生成したヒドリドパラジウムヘテロ二核錯体のパラジウム-ヒドリド結合がアルケンやアルキンへのシス付加によるアルキルパラジウムヘテロ二核錯体が生成した後、ヒドリドパラジウムヘテロ二核錯体の再生を伴ったアルキルもしくはアルケニル錯体が生成することにより進行しているものと推測される。
|