研究概要 |
モリブデンもしくはタングステンヒドリド錯体MHCp(CO)_3(M = Mo,W)のアルケンへの付加の反応速度は、パラジウム錯体のホスフィン配位子の立体的な要因によって大きく変化する。すなわち、ホスフィン配位子のコーンアングルが中程度のトリフェニルホスフィンやジフェニルメチルホスフィンに比べ、よりかさ高いホスフィンや、逆にコーンアングルの小さなホスフィンほど挿入反応が促進される傾向が確認された。特に、非常にかさ高いトリ(ο-トリル)ホスフィンもしくは非常なコンパクトなトリメチルホスフィンを添加したときに反応が大幅に加速されることが明らかとなった。また、パラジウムに対してホスフィンの添加量を変化させ、反応速度に及ぼす影響を調べたところ、トリ(ο-トリル)ホスフィンは1等量、トリメチルホスフィンは2等量、それぞれ用いた時に最も速く反応が進行することが明らかとなった。このことより、非常にかさ高いホスフィンではモノホスフィン錯体が、コンパクトなホスフィン配位子ではビスホスフィン錯体が、活性種として触媒反応が進行していることが示唆された。また、WHCp(CO)_3とアルケンの反応でトリ(ο-トリル)ホスフィン、トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィンのそれぞれのパラジウム触媒系で、反応速度における基質や触媒の濃度依存性について検討した。さらに、それぞれの系でWDCp(CO)_3による重水素ラベル実験を行った。その結果、コーンアングルの大きいホスフィンと立体的にコンパクトなホスフィン配位子では反応の律速段階が異なることも明らかとなった。
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