研究課題
フェレドキシン型[4Fe-4S]クラスターは、1970年代から知られる古典的錯体であるが、これまで合成フェレドキシン型錯体が物質変換反応サイトとして用いられる事はなかった。その理由は、(1)錯体が熱力学的に安定であり、反応活性な鉄を生じさせることが難しいこと、(2)四つある鉄が等価であり、厳しい活性化条件では複数の鉄サイトが反応に加わり、分解することである。本研究では、特定の鉄を活性中心として用いることが可能なクラスターの合成、ならびにアコニターゼをはじめとした酵素が[4Fe-4S]クラスターの鉄の一つを用いて行う基質変換反応、そしてニトロゲナーゼが行う窒素固定化反応の再現を目指した。我々が最近合成した[4Fe-4S]アミドクラスターは、四つの鉄がFe(III)の状態にあり、通常よりも二電子分、酸化状態が高い。この高い酸化状態は、強く電子供与するアミドによって保持されており、相対的に電子供与性の低いチオラートに置換すると、チオラートの解離を伴う自動還元が起こり、鉄が配位不飽和となった活性な状態を与えると予想される。この作業仮説に基づき、種々の嵩高いチオールを[4Fe-4S]アミドクラスターに作用させた。結果、ジメシチルフェニルチオールとの反応から、一つの鉄が特異的に溶媒のTHFで保護された[4Fe-4S]クラスターが生成することを見いだした。この錯体はいわば一つの鉄が活性化された状態にあり、[4Fe-4S]クラスターの鉄を用いた反応に適していることは明らかである。クラスターを用いた窒素固定化を達成するために欠かせないのは、錯体を用いた窒素捕捉と変換に関する知識と経験であるが、代表者にその経験はなく、また国内にも現在は専門的に行っている研究者が存在しない。そこで、世界的第一人者であるフライザック氏のもとで窒素分子の補足と変換反応について経験を積んだ。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (3件)
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