研究概要 |
本年度はマルチフェロイクス特性発現を目指して、磁性体に誘電特性を付与するために、反転中心を消失させた構造を有するキラル磁性体の合成を検討した。シアノ架橋Mn(II)Mn(III)磁性体の合成において、光学活性な有機配位子LとしてS-またはR-1,2-diaminopropaneを用いることで、空間群P 2_12_12_1で結晶化した[Mn(HL)(H_2O)][Mn(CN)_6]2H_2Oを得た。単結晶X線構造解析及びCDスペクトルより、化合物はMn(III)-CN-Mn(II)結合で展開された2次元シート構造を形成しており、互いに鏡像体であることを確認した。キラル有機配位子はMn(II)の軸位に配位していた。直流および交流磁化率測定により、両化合物共にMn(II)...Mn(III)間のシアノ架橋を介した反強磁性的相互作用を示し、21.2Kでフェリ磁性体になることを確認した。交流磁化率の周波数依存においては、磁気相転移温度以下で3つの異常な応答が観測された。非線形交流磁化率においても同じ温度域で3次高調波が観測され、バルクの磁気相転移後のスピンもしくはドメインのダイナミクスによる応答の段階的変化が示唆された。今後は配位子のラセミ体を用いた類縁体を合成し、キラル体と構造と磁気挙動を比較するとともに、この交流磁化率の異常な応答の起源とキラリティの相関を、中性子回折、μSRや比熱測定により考察する。また、磁場下での誘電性、電場下での磁気特性の評価を進める。
|