銅ヒドロペルオキソ種およびオキソ種は、ドーパミン-Bモノオキシゲナーゼ(DBM)をはじめとする酵素の活性中心に含まれ、重要な役割を担っていると考えられている。長年、単核銅の活性種は銅ヒドロペルオキソ種であるとされてきたが、QM/MM法を用いた理論的解析によって、DBMの活性点において銅オキソ種が最も高い反応性を有していることを明らかにした。また、銅ヒドロペルオキソ種のO-O結合が周辺タンパクによって活性化されるのであれば、銅オキソ種が活性種となり得ることが示唆された。しかし、この反応活性種を模した錯体は有用な触媒となることが期待されるものの、その反応性および反応機構の詳細は未だ解明されていない。そこで、密度汎関数法に基づく解析により銅錯体(N4Py)Cu-OOHによるエチレンのエポキシ化反応の理論的解析を行うことを目的とし、ヒドロペルオキソ錯体が直接基質を酸化する反応経路と、O-O結合のラジカル的開裂を経て生成したオキソ錯体が基質を酸化する反応経路について、それぞれエネルギー変化の検討を行った。銅ヒドロペルオキソ種による反応では、エチレンの炭素が近位酸素と結合する経路1と、遠位酸素と結合する経路2のふたつの反応経路を考慮した。経路1の活性化エネルギーは26.3kcal/molであるが、経路2は39.7kcal/molと極めて高いため、経路1で反応が進むことが明らかとなった。中間体は1重項と3重項とで構造、エネルギー共に近いため、スピン反転が生じ得ると考えられる。反応系から中間体にかけては、エネルギーが低い3重項で反応が進行すると考えられる。一方、生成系は1重項状態が3重項よりも41.4kcal/mol安定であることから、中間体でスピン反転が起こり、中間体から生成系にかけては1重項で反応が進むことが明らかとなった。
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