研究概要 |
ヒトの呼気には, 数多くの揮発性有機化合物(VOC)が含まれており, 特定の疾病と関連があるVOCが存在することが知られている。例えば, 糖尿病患者の呼気には, 健常者と比べて高濃度のアセトンが含まれている。このように呼気中のVOCは特定の疾病に対するバイオマーカーとなる。ホルムアルデヒド(HCHO)も呼気に含まれていることが知られているが, 研究例は少ない。本年度は, 以下に示す研究成果を得た。 呼気アセトン : サリチルアルデヒドを用いるアセトンの吸光光度法を開発し, 呼気アセトンを定量した。その結果, 食事後3時間毎に呼気アセトン濃度を絶食状態で30時間後まで測定したところ, 405ppbvであった濃度が5180ppbvまで上昇した。一方, 同じ運動でも, 空腹時の運動の方がより呼気アセトン濃度が上昇することも確認された。これらの結果は, 体内の脂肪酸代謝を反映したものと考えられる。 呼気HCHO : ガス分析システムの校正には, 一般にガスシリンダーから供給される標準ガスが用いられる。しかし, 濃度変動などの問題を抱える。そこで, HCHO標準溶液をキャピラリー管から重力を利用して極低速度で滴下し, キャピラリー管の先端で完全気化させることにより, HCHO標準ガスを発生させた。この方法を「重力滴下蒸発法」と命名した。重力滴下蒸発法によるHCHO標準ガスは, 拡散スクラバーに導入されてHCHO水溶液となり, オンライン接続されたフローインジェクション蛍光分析システムにより検出された。校正された分析システムにより呼気HCHO分析を行った結果, 4名のボランティアから5.8-11.8ppbvのHCHOを検出した。また, 喫煙習慣のあるボランティアでは, 喫煙前の約1.5倍の濃度のHCHOが約25分間にわたり検出され, その後, 喫煙前の濃度に近い値まで減少した.
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