我々はこれまでに、カルボン酸と第一級アミンとの塩において、どちらか一方のユニットにアルキル長鎖を導入することにより、サーモトロピック液品が形成されることを見いだしてきた。本研究では、この酸-塩基二成分液晶を利用し、液晶中に閉じ込められた物質の化学反応について系統的な研究を行なうことにより‘液品反応場'の潜在能力を明らかにすることを目標とした。研究の初期段階として、カルボン酸ユニットとして光二量化能を有するアントラセンカルボン酸を用い、これと両親媒性アミンとの塩が形成する液晶の中でカルボン酸の光反応を行ない、反応の効率および選択性を調べた。 始めに、光学的に純粋な両親媒性アミノアルコールの合成法として、(1)目的物またはその前駆体のラセミ体を合成した後にこれを光学分割する手法と(2)天然アミノ酸を出発原料として目的化合物へと誘導する手法とを開発し、それぞれ効率良く日的化合物を得た。 続いて、これらの両親媒性アミンとアントラセンカルボン酸類との塩を調製し、液晶相発現の有無を調べた。置換基位置の異なる二種類のカルボン酸(1-アントラセンカルボン酸および2-アントラセンカルボン酸)を川いたところ、光学分割法より合成した両親媒性アミンはいずれのカルボン酸とも液晶を形成出来るのに対し、アミノ酸より誘導した両親媒性アミンは1-アントラセンカルボン酸とのみ液晶を形成することが明らかとなった。 得られた酸塩基液晶を用い、アントラセンカルボン酸の光二量化反応を行なった。この反応では生成物として4種類の位置異性体が生成しうるが、興味深いことに、いずれの場合にも2種類の異性体のみ選択的に合成されることが明らかとなった。特に、光学分割法により合成した両親媒性アミンと2-アントラセンカルボン酸との塩を用いた場合には、生成物の光学的組成に30%eeの偏りが見られることが分かった。
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