研究概要 |
申請者は、アリール-1,6-ジイン化合物に塩基を作用させると、室温で環化異性化反応が進行し、置換ナフタレンが得られることを見出しており、本研究課題においてその詳細な検討を行っている。この反応システムでは、塩基により発生したプロパジルアニオンがアレニルアニオンへ異性化し、アニオンがジエン部分に含まれる分子内Diels-Alder反応が進行しているものと考えられる。このシステムでは、従来のLewis酸によるジエノフィルの活性化によるDiels-Alder反応の活性化とは異なり、アニオンがジエンに含まれることでジエンが活性化されるという全く異なる手法になりうると考えられる。 今年度は、この反応システムの基礎的検討として基質適用性及び反応性の調査、反応機構の解明を目的とした。その結果、この反応システムでは、多様な芳香環がジエンの一部として利用できること、非対称なアリール-1,6-ジインを用いた場合には、アリール基上の置換基の電子的性質によってどちらのアリール置換基が生成するナフタレン環に組み込まれるかという化学選択性が完全に制御されることを明らかとし、この手法が一般的な多環芳香環合成法として有用であることを明確にした。また反応機構を解明するための様々な実験、分子軌道計算を実施することにより、この反応がアニオンによって活性化された分子内Diels-Alder反応であることを強く示唆する結果を得ることができた。
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