研究概要 |
窒素キレート配位子を有するパラジウム錯体が両末端ジエンの環化重合反応を引き起こし、繰り返し単位ごとに五員環を有する新しい構造の高分子を与えることを見出した。しかも本重合は、多彩な官能基を構造単位に含む高分子の合成にも応用できる。生じる高分子の五員環の立体配置はいずれもトランスに制御されている。窒素上のアリール基にかさだかさの異なる置換基を有する配位子をもつ錯体ではアイソタクチック型の立体配置が優先した。これらの錯体ではいずれも配位子の置換基がC2対称の反応場を形成するように配向し、これが、高いアイソタクティシテイーを発現する原因となったものと理解される。 本重合では、生長末端のPd-C結合にジエンの一方のビニル基が2,1-挿入し、すみやかに残ったビニル基が分子内1,2-挿入をおこすことによって1,2-二置換五員環を含む構造単位が生成する。これは、前周期遷移金属錯体触媒による環化重合においては、1,2-挿入反応の繰り返しによって1,3-二置換六員環基本構造を生成する結果と対照的である。本反応においてはパラジウム錯体の特性によってジエンの最初のビニル基の挿入反応は2,1-挿入で進行し、次ぐ分子内挿入は立体的な要請によって1,2-挿入反応で進行する。このような機構の違いにより、1,2-二置換シクロペンタンジイル構造をもつ高分子を合成することができた。 パラジウム触媒を用いると同様な両末端ジエンとエチレンとのランダム共重合をおこなうこともでき、この場合にもジエンの閉環は定量的に進行する。生成する高分子主鎖のエチレン部分に対するジエン部分の比は、触媒や反応条件に応じて3%から42%まで制御することが可能である。ジエンに由来する五員環単位を3%含む高分子では主鎖は分岐構造を多くもつ一方、42%の五員環単位を有する高分子ではオリゴエチレン部分には分岐はみられない。
|