研究概要 |
石曽根と伊藤によるリビングアニオン重合法を用いて,末端構造と立体構造が精密に制御された直鎖ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を合成した.重合は,アミドプロトンに保護基を付したモノマー(N-メトキシメチル-N-イソプロピルアクリルアミド)をリビングアニオン重合し,その後,脱保護基反応を行うことで達成した.得られた原試料を分別沈殿法および透析によって精製し,測定試料を得た.測定試料は,重量平均分子量が5,000から70,000の範囲にわたり,分子量分布はいずれの試料についても1.1程度であり,また立体規則度を表すラセミ率は分子量によらず0.50±0.01である.これらの測定試料の水溶液に対して透過光強度の温度変化を測定し,曇点と溶液濃度の関係を表す曇点曲線を決定した.曇点曲線は,試料の分子量が小さくなるにつれて下方(低温側)へ移動することがわかった.これは,今回調製したポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)試料は,開始末端に疎水性のジフェニルメチル基を持つため,分子量が低下するにつれてその疎水性末端基の影響が顕著になることによると考えられる.また,今回調製した直鎖ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)試料の曇点曲線を,以前に得たフリーラジカル重合によって調製されたポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)試料に対する結果と比較した.フリーラジカル重合試料に対する結果から,曇点曲線は分枝の程度が高いほど低温側へ移動することがわかっている.今回の直鎖ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)試料の曇点曲線は,分枝の程度が高いベンゼン中でフリーラジカル重合された試料よりは高温側にあるが,分枝の程度が低いtert-ブタノール中でフリーラジカル重合された試料よりは低温側にある.フリーラジカル重合によって得られるポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)試料の末端基はジフェニルメチル基に比べ疎水性が低いと考えられるイソブチロニトリル基である.このことより,ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)水溶液の曇点曲線は,分枝の程度のみならず末端効果にも大きく依存すると結論できる.
|