本研究を遂行する上で基幹となる「ナノ秒過渡吸収測定システムの高感度化」を早期に着手した。過渡吸収測定では微少なモニター光強度変化を検出する必要があるので、試料からの発光や迷光をできる限り除去する必要がある。そのため、本年度の物品として分光器を2台購入し、試料の前後にそれぞれ配置した。試料と検出器の間に1台配置するのが一般的な光学系であるが、試料前にも配置することにより試料の励起を極力避けることができ、試料からの微弱な発光や散乱光を大幅に低減することができた。検出器にはプリアンプを内蔵したSiフォトダイオードを使用し、電気的なバンドパスフィルターにより観測時間域を2桁程度に限定してから、メインアンプによって信号を増幅した。以上の改良により、わずか0.00001〜0.000001の吸光度変化を感度よく検出できるようになり、これまでのシステムに比べて千倍から一万倍の感度向上に成功した。これにより、厚さわずか100nmの高分子薄膜の過渡吸収測定を広い時間範囲に対して行うことができるようになった。 この高感度過渡吸収システムを用いて、1)共役高分子-低分子ブレンド薄膜、2)金属ナノ粒子-共役高分子ハイブリッド膜、からなる高分子ヘテロ接合場における電荷再結合を検討した。1については、ポリフェニレンビニレン系高分子(MDMO-PPV)とフラーレン誘導体(PCBM)のブレンド膜を対象とし、種々の組成に対して測定を行った。その結果、電荷再結合はべき乗則にしたがい、電荷キャリアの脱トラップが律速過程である再結合が支配的であることを見出した。さらに興味深いことに、PCBM組成が80wt%のブレンド膜では、PCBMアニオンだけではなくPCBMカチオンが生成していることを示唆する結果を得た。2についても、観測された電荷再結合の時間減衰はべき乗則にしたがい、同様に電荷キャリアの脱トラップが律速過程であることが明らかとなった。また、金属ナノ粒子表面に色素を化学吸着すると、生成キャリア量が増加するとともに電荷再結合速度が低下することを見出し、ヘテロ接合界面での化学修飾が電荷再結合に大きな影響を及ぼすことを実証した。
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