前年度に確立した本研究の基盤装置である高感度過渡吸収測定システムのノイズ対策を詳細に行った結果、サブマイクロ秒から秒にわたる広い時間領域に対して10^-6の吸光度変化の検出を実現した。これにより、電荷再結合過程をほぼ全時間領域に対して観測することが可能となった。本年度は、改良した同システムを用いて、1)ポリパラフェニレンビニレン(PPV)とフラーレン誘導体(C60)からなるヘテロ接合膜、2)TiO_2多孔膜とポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)からなる有機-無機ハイブリッド系ヘテロ接合膜における電荷再結合過程を研究対象とした。1)については、交互吸着法により構築したPPV/C60の平面ヘテロ接合膜においても電荷再結合過程はべき乗則にしたがい、バルクヘテロ接合膜と同様に再結合過程は単純な二分子過程ではなく脱トラップ過程律速による二分子反応であることを見出した。また、参照系として用いたバルクヘテロ接合膜では、フラーレンのアニオンのみならずカチオンが生成していることを示唆する結果を前年度に見出した。過渡吸収法の利点を活かし定量解析を行った結果、フラーレンの重量組成が80wt%のブレンド膜では、ブレンド膜に生成した正孔の80%がフラーレンカチオンとして存在することを分光学的に明らかにした。この結果は、フラーレンは電子輸送剤として機能するという従来の考えを覆す興味深い結果である。2)については、TiO2表面への色素修飾効果を過渡分光法によりヘテロ界面での電荷再結合の観点から検討した。その結果、色素修飾によりピコ秒の時間領域でのヘテロ界面での対再結合が効果的に抑制されていることを明らかにした。さら、マイクロ秒から秒にわたる広い時間領域に対しても電荷再結合は抑制されており、色素修飾による光電流の増加は初期の対再結合のみならず長時間領域でのバルク再結合を効果的に抑制した結果、電荷の回収効率が向上したためであることを明らかにすることができた。
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