研究概要 |
昨年度に引き続き、分子内電子移動を利用した非破壊蛍光読み出し可能な分子の設計・合成に取り組んだ。昨年度の結果をもとに、酸化されたチオフェン環をアリール部位として有するS,S-ジオキシドジアリールエテン誘導体と強い蛍光性を示すペリレンピスイミド誘導体を結合した分子を合成し、そのフォトクロミック挙動と蛍光特性を評価した。 合成した分子は低誘電率の1,4-dioxane中において、可逆的なフォトクロミズムを示した。その際、蛍光強度にいかなる変化も観測されなかった。一方、溶媒の誘電率を増加させた1,4-dioxane/methanol(1:1)混合溶媒中では、同様の可逆的なフォトクロミズムを示し、さらにそのフォトクロミズムに伴い蛍光強度も可逆的に変化することが認められた。この結果は、エネルギー移動でなく電子移動により蛍光消光が起こっていることを示唆する結果である。さらに詳細な検討を行った結果、フォトクロミズムにより形成する二つの異性体のうち片方の異性体では電子移動による蛍光消光が全く起こらず、もう片方の異性体でのみ電子移動に伴う蛍光消光が起き、その蛍光特性は顕著な誘電率依存性を示すことを明らかにした。 以上の結果は、合成した分子が分子周囲の極性を検知可能な蛍光プローブとなることを意味している。今後、単一分子レベルでの光制御を実現することにより、単一分子レベルで機能する究極的な局所探査プローブとしての応用が期待される。
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