分子性伝導体のうち、もっとも典型的な電荷移動型錯体であるTTF-TCNQ錯体について分光学的研究を行った。 はじめに、構成成分であるTTFおよびTCNQについて、それぞれの結晶(粉末)のテラヘルツ帯での透過スペクトルを測定し、それぞれに固有の複数の振動モードを検出した。また、Gaussian03による振動解析によって、いくつかの振動モードについて、その帰属(骨格振動などの分子内振動)が判明した。 続いて行ったテラヘルツ反射スペクトル測定により、反射率が非常に大きいことが確認された。すなわち、入射したテラヘルツ光の大部分が反射していたために透過強度が弱かったことが明らかになった。 文献値によるとTTF-TCNQのプラズマ振動数は5000cm^<-1>以上で、これより低い振動数帯では電磁波が反射される。したがってテラヘルツ帯(〜300cm^<-1>)では高い反射率となるのである。 TTF、 TCNQ、 TTF-TCNQ錯体それぞれについて、冷却によるテラヘルツ透過スペクトルの変化を調べたところ、温度変化に付随するピークシフトが見られた。ピークシフトの程度はバンドによって異なり、振動モードの帰属を反映しているものと推定される。
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