光誘起磁化の特性をコントロールするためには、光により励起された状態からの緩和ダイナミクスの研究は重要である。本研究課題では、Prussian Blue化合物の光誘起磁化の実験において観察される緩和過程に注目し、新しく提案した磁気相転移とスピンクロスオーバー転移の両方を扱えるモデルを用いて、高スピン状態の割合や磁気秩序の変化の特徴ついて解析した。特に、光照射後の温度サイクルの実験にみられる秩序変数の温度依存性に注目した。ここで温度サイクル過程とは、低温で光励起により生じた高スピン状艦を始状態として、ある温度まで温度を上昇させて再びもとの温度まで冷却する過程である。実験では、この冷却過程において磁気秩序形成が起こりえて、多様な温度依存性を示すことが報告されている。ここでは、モデルによるシミュレーションにより、温度サイクルの温度変化の速度や温度領域によって磁気秩序形成は多様に変化しうることを示した。そして、実際に実験で見られる温度依存性の特徴を再現した。磁気秩序は高スピン状態の分子サイトの間で起こるため、高スピン状態の緩和の過程で磁気サイトのダイリューションが起こるが、そこでは磁性分子サイト間の相関が重要であって、ランダムダイリューション系の磁性体とは異なった特性を持ち、温度変化の速度や温度領域に依存してその相関が変化していることを明らかにした。そして、その相違が生じる機構について微視的観点(核生成過程)から考察を行った。 その他、スピンクロスオーバー系のミクロスコピックな視点から導いたモデル(弾性相互作用に基づき、分子が体積変化し得るモデル)を提案しその解析を行った。
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