本年度はこれまで調査を行った大阪湾および広島湾と比較するために、両湾に接する陸域人口がさらに少ない鹿児島湾におけるPAHsおよびアルキルPAHsを主として行い、3地点の比較を行った。PAHsに関してはどの地点も共通してナフタレン、アセナフチレン、アセナフテン、フルオレン、ジベンゾチオフェンといった低分子化合物の底質中濃度が低い傾向にあった。これはこれら低分子化合物類が比較的揮発性が高く、大気中などから水域に到達したとしても海表面で再び揮発してしまい、底質まで到達しないのでは無いかと今のところ考察している。これに対して、フルオランテン、ピレン、ベンゾ(a)アントラセン、クリセン、ベンゾ(b)フルオランテン、ベンゾ(k)フルオランテン、ベンゾ(a)ピレン、ペリレンといった中〜高分子化合物は相対的に濃度が高く、低分子のものと比較すると10倍以上の濃度である地点が多かった。これは低分子のものとは逆に揮発性が小さいために海域に到達して水中に浮遊する微粒子に吸着し、海底まで沈降して海底泥に残留するものと思われる。PAHsに関しては日本有数の都市に近接する大阪湾底泥中の濃度がもっとも高いのではないかと予想されたが、調査の結果、3地点で大きな差は見られなかった。さらに大阪湾のどの調査地点よりも底質中PAHs濃度が高い地点が広島、鹿児島両湾にも散在した。アルキルPAHsはPAHsとは異なり、明らかに大阪湾が広島、鹿児島両湾と比較すると底質中濃度が高い傾向にあった。アルキルPAHsは石油が直接的な由来であることから船舶などからの汚染が考えられるが、それぞれの海域の船舶航行数にある程度比例するものと考えられた。
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