本研究では溶液に添加する低分子化合物をデザインすることで、タンパク質の熱による凝集の抑制や、リフォールディングにともなう凝集の抑制する方法を試みた。 リゾチームを対象に調べたところ、熱にともなう凝集の抑制に最良の添加剤はアミノ酸アルキルエステルやポリアミンだった。本研究ではあらたにアミノ酸アミドを見いだした。効果はアミノ酸アルキルエステルと同等だが、加水分解をうけにくいために応用範囲が広がる。またポリエチレングリコールを加えておくと、アルギニンやアミノ酸誘導体の凝集抑制能が相乗的に増加することを見いだした。 リフォールディングにともなう凝集と熱にともなう凝集にたいして効果のある化合物を網羅的に探索した。その結果、前者にはウレイド基やグアニジウム基を持つ化合物が、後者にはアミノ酸の主鎖骨格を持つ化合物が候補にあがった。 タンパク質の熱凝集という速度論的な過程は、平衡論的な溶解度という概念で記述できることがわかった。ホフマイスター系列中、溶解度を低下させるタイプの塩は、タンパク質凝集速度を増加させる相関がみられたが、アンモニウム塩は例外的に凝集を高度に抑制した。タンパク質溶液には、経験的に塩化ナトリウムなどの塩を添加することが多いが、凝集を抑制するというデザインを考えるならモル表面張力増加率の低いカチオンとアンモニウムイオンを組み合わせた塩(例えばチオシアン酸アンモニウムやヨウ化アンモニウム)が好ましいことを意味する。
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