本研究の目的は可視光で駆動するケージド化合物の開発である。ケージド化合物は、光応答性色素部位と生理活性物質の2つの部位からなる分子で、光励起により分解し、生理活性物質を放出する。本年度は特に新規ケージド化合物の光応答性色素部位の分子設計・合成及び、その光反応性の最適化を行うためのモデル化合物の合成・物性研究を行った。 1.先ず、ケージド化合物の前駆体となる新規光応答性色素として、ニトロキノリンおよびニトロキノリン骨格に置換基を導入した2種類の類縁体を合成した。ニトロキノリン及びそれら類縁体は、出発化合物のキノリン誘導体から2-3段階の合成でそれぞれ簡便に得られた。 2.次にケージド化合物における新規ニトロキノリン類の有用性を確かめるため、光照射により酢酸分子を放出するモデル化合物を設計した。モデル化合物はそれぞれの前駆体から1段階で合成した。得られたモデル化合物は、含水溶媒中(メタノール:水=1:1)、暗所で安定に存在することが分かった。また、モデル化合物の構造決定を行うため、X線結晶構造解析およびNMR測定を行った。その結果モデル化合物は結晶中では1成分で存在するが、溶液中では回転異性体との平衡状態にあることが分かった。さらに回転異性体の存在比率は溶媒に依存して変化することがわかった。さらに紫外可視吸収スペクトル測定により、モデル化合物は400nm以上の可視領域まで吸収帯が存在し、可視光による光励起が可能であることが確認された。また、モデル化合物の溶液への光照射に伴う吸収スペクトルの変化が観測され、光分解反応が確認された。光分解生成物の構造分析を、ESI-MS及びNMRで行ったところ、光照射で酢酸分子が放出されたことが確認された。
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