ケージド化合物は、光分解性保護基(ケージング基)を生理活性物質に結合させることにより、生理活性物質を一時的に不活性にした分子である。これに光照射すると、ケージング基が外れ、生理活性物質の本来の活性が瞬時に復活する。本年度は、昨年度開発したケージング基の異なる部位に置換基を導入した誘導体を合成し、その置換基効果を検討することにより、光反応性の最適化を行った。 1.先ず、昨年度合成した新規ケージング基である、5-メトキシ-8-ニトロキノリンを用いたケージド化合物のモデル分子の光物性を検討した。このモデル化合物は光照射により酢酸分子を放出することがすでに分かっている。より詳細な光物性の検討の結果、この分子の光分解量子収率は0.05であることがわかり、これまでに報告されている、ケージング基と同程度の活性を示すことが明らかとなった。また、溶液中、室温、暗所で3日間放置したところ、全く分解が見られなかったことから、暗所での高い安定性があることがわかった。 2.次にこの新規ケージング基の光物性を最適化するために、置換基の位置を変えた、6-メトキシ-8-ニトロキノリンおよび、メトキシ基を持たない8-ニトロキノリンを原料とし、ケージド化合物のモデル分子を合成した。これら構造決定を行うため、X線結晶構造解析およびNMR測定を行った。その結果、いずれのモデル化合物も、溶液中では回転異性体との平衡状態にあることが分かった。さらに回転異性体の存在比率は溶媒に依存して変化することがわかった。また、溶液への光照射に伴う吸収スペクトルの変化が観測され、光分解反応が確認された。光分解生成物の構造分析を行ったところ、光照射で酢酸分子が放出されたことが確認されたが、光反応はより複雑となることが分かった。現時点では、ケージド化合物に用いるのは昨年度合成した5-メトキシ-8-ニトロキノリン誘導体のケージング基が最適であると考えている。
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