生体の光合成系は脂質二分子膜を反応場として、光捕集-エネルギー変換を行っている。そこで、リポソームの脂質二分子膜内にクロロフィルの誘導体を導入することで、光合成の光捕集機能を模倣したリポソームの作成を試みた。光合成の光捕集器官の中で、緑角光合成細菌はクロロゾームと呼ばれるバクテリオクロロフィル(BCh1)-c分子の自己会合体からなる集光アンテナを持っている。ここでは、クロロゾームのモデルとして有効である亜鉛クロリンの自己会合体を脂質二分子膜内に挿入した集光アンテナモデルの構築を目指した。まず、3^1位にメトキシ基、17位のエステル部にヒドロキシデシル基を導入した亜鉛クロリンを合成し、亜鉛クロリンおよびボスファチジルコリンの混合物から亜鉛クロリンを脂質膜内に含むリポソームを作製した。このリポソーム溶液の可視吸収およびCDスペクトルの結果から、亜鉛クロリンは自己会合体を形成していることが確認できた。また、AFMおよび蛍光色素を封入する実験から、亜鉛クロリンを導入した状態でも球状リポソームの形態を保っていることを確認した。また、エネルギーアクセプターとしてバクテリオクロリンを加えたところ、亜鉛クロリン自己会合体からの蛍光発光が消光し、新たにバクテリオクロリンからの発光が観測され、亜鉛クロリン自己会合体からバクテリオクロリンへのエネルギー移動が確認された。このようにして、天然の光合成系と同様に生体膜を反応場とした集光器官を構築することに成功した。加えて、親水性のオキシエチレン基をもつ種々の亜鉛クロリンを合成し、その会合体がクロロゾームと同様にロッド状の形態を示すことや、水酸基周りの立体配置の違いによって会合体の超分子構造が大きく変化することも見出した。
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