生体内にはメッセンジャーRNA(mRNA)と呼ばれる一群のRNAが存在する。申請者らは、このmRNAが特定の条件下で疎水的なアルキル基と選択的に相互作用する現象を発見した。昨年度までに、この現象を利用して生体由来のRNA混合物(total RNA)からmRNAを分離・抽出することに成功している。今年度は、この分離方法について更に詳細に検討を行った。 1.生物種の異なるtotal RNAからの分離について:これまで酵母由来のtotal RNAを用いてmRNA分離実験を行い、良好な分離収率を得ていた。本分離方法が汎用的に利用できることを確認するために、様々な生物由来のtotal RNAからの分離を試みた。その結果、ダイズ、トウモロコシ、ラット腎臓、Hela細胞、ヒト心臓、ラット腎臓、由来のtotal RNAからそれぞれ85.1%、97.7%、94.6%、93.6%、81.2%、94.3%、の高収率でmRNAを回収することが出来た。真核生物のmRNAは基本的にポリAテイルを有するため、アルキル鎖との疎水的相互作用により分離が可能であることを示す結果といえる。 2.mRNA間の回収比率の検討:total RNAに含まれるmRNAは酵母では約6000種類といわれている。これらのmRNA分離においてmRNA群の存在比率を変えることなく分離抽出することが重要である。この点について検討を行うために、リアルタイムPCR実験を行った。(1)本方法で分離したmRNA、(2)従来技術(オリゴdT法)により分離したmRNA、(3)total RNAを比較試料として、5種類の遺伝子について定量実験を行った。その結果、各試料間で概ね同様のCt値が得られた。従って、本方法において、total RNA中に含まれるmRNAを偏りなく回収できていることが示竣された。 3.結論:今回確立したmRNA分離法が、真核生物のtotal RNAに汎用的に適用可能であることが示された。また、分離したmRNAは本来の存在比率を保持していることも明らかとなった。従って、本方法は様々な遺伝子関連技術に用いることが出来ると期待される。
|