我々はアナターゼ型酸化チタンの粉末試料を出発物質として、950℃の水素中で還元焼成することにより、新しい斜方晶構造を有する木定比酸化チタンTiO_<2-x>が得られることを見出していた。X線光電子分光法(ESCA)や熱重量測定(TG)を組み合わせることにより、酸素組成の決定に成功し、還元時間を1〜5時間の範囲で変化させることにより、xを0.06〜0.15の範囲で連続的に制御できることがわかった。これらの化合物の粉末X線回折パターンにリートベルト法を適用し、系統的に結晶構造の精密化を行ったところ、正方晶のルチル型構造から酸素が欠損することにより、対称性が徐々に崩れるとともに、一方向の格子定数が増加することがわかった。また、熱電変換性能を高めるためには、粉末試料をできるだけ相対密度の高いペレットに加圧成型する方がよいことも見出した。 さらにルチル型酸化チタンの単結晶試料を出発物質としても、同一の条件で還元焼成することにより不定比酸化チタンの単結晶が得られることがわかった。1時間還元して得られた試料の組成がTiO_<1.983>であり、粉末試料を還元する場合に比較して、3〜4倍程度還元速度が小さいことがわかった。単結晶試料を用いて、(100)面に垂直方向のゼーベック係数を測定したところ、-0.538mV/Kと非常に高い数値が得られた。単結晶の還元体試料について、ESCAにより(100)面に垂直方向の価数分布を調べたところ、3価と4価の比率が不規則に変化していることも見出した。高いゼーベック係数がこのような価数の不規則変化と相関があるのかについて、理論的な検討を加えた。
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