本研究は、ポリL乳酸(PLLA)における電界配向結晶化過程のメカニズムを解明することを目標として開始した。18年度の研究では、結晶成長過程における一次成長速度および二次成長速度の温度依存性の調査を実施し、配向結晶化には一次成長過程の段階で既に決定されており、更に陽極付近での高分子鎖と電場との相互作用が重要であることを確認した。この結果を踏まえ、19年度は陽極付近における分子構造、運動性についての理解を深めることを目標として原子力間顕微鏡(AFM)観測を行った。実験の結果、結晶成長の開始する直前に陽極付近では高分子鎖の移動があり、陽極近傍では高分子薄膜が削り取られたような窪み構造の形成されることを見出した。窪みの深さは数μm、窪みの幅は数十μm程度であった。このことは、陽極近傍でマクロスコピックな空間スケールで高分子鎖の移動の生じていることを示すものである。高分子鎖の移動は、高分子末端のカルボキシル基が陰イオン化し、陽極より引力的相互作用を受けたことによって駆動したものと考えている。高分子鎖の移動範囲内ですべての電圧降下が終了したものと仮定すると陽極付近にはおおよそ10MV/mという大きな静電場が印加されたことになる。高分子鎖が陽極に引きつけられた際、陽極付近に流動場が生じることが予想される。高分子鎖はこの流動場に沿って一軸配向するであろう。高分子鎖は配向することによりその構造的なポテンシャルエネルギーが低下するため、周囲の電場の影響を受けなかった部分よりも容易に結晶成長することができたのであろう。
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