X線パルスをプローブ光として用いた実験は、励起光である紫外線あるいは可視、近赤外線パルスとの試料表面における空間的、時間的オーバーラップをとることが従来の実験に比べ難しい。今年度は水溶液をパルスX線源とする実験に加え、カセットテープを光源とする時間分解X線回折実験を行った。 水溶液を用いた実験では、安定にパルスX線が発生するものの、時間分解X線吸収分光測定のための光学系に、安定性上の問題が生じ、光学系そのものの再検討を行った。その過程で時間分解X線回折実験で上述の励起光、プローブ光の空間的、時間的オーバーラップを確認することを行った。シリコンウエハを試料とする時間分解X線回折実験で、ポリキャピラリレンズによるX線パルスの集光と、励起光とのオーバーラップをとり、確認する手法を確立した。あわせて、ドーパントの異なるシリコンウエハを試料として用い、近赤外線フェムト秒パルスを励起光とする場合、シリコン単結晶の過渡的圧縮ダイナミクスに違いがあることを見いだした。これらの違いは、結合・反結合軌道の違いや励起される電子準位の違いによるものであると現在推測している。これらの実験から得られた知見は、第32回原子衝突研究協会における招待講演や、The 9th RIES-Hokudai Int'l Symposiumにおいて発表している。これらの実験に基づき、時間分解X線吸収分光測定のための光学系の再構築に関しても、今後の指針を得た。
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