微傾斜表面に金属原子を極微量蒸着し、その蒸着量を制御することによって、金属原子のナノワイヤーのサイズや形を精度良くコントロールできる。本研究では、Au(788)微傾斜表面上にFeの1次元単原子鎖あるいは2次元単原子層を構築し、その磁気構造をX線吸収分光ならびに磁気円二色性を用いて調べた。 Feの1モノレイヤーでは、低温(24K)、強磁場(1.9T)のもとで、明確なMCDピークが観測された。これはFe1層からできたナノ構造が、低温では磁場印加方向に磁化されていることを示す。またMCD強度の角度依存性を調べると、その角度依存性はわずかであるが、表面垂直方向の磁気異方性を示した。ナノ構造体の磁気状態については、MCD強度の磁場依存性を調べることでより詳細な情報を知ることができる。低温(24K)では、バルクのFeと同様の長方形型のヒステリシスループ曲線を示したが、温度の上昇とともに保持力が消失し、室温においては常磁性であった。磁化曲線におけるヒステリシスはFe/Au界面の結晶磁気異方性に起因するものであり、低温における非平衡状態を示している。 一方、Feの単原子鎖では、モノレイヤーのときと同様に、低温(18K)、強磁場下において強く磁化されることが分かったが、保持力の消失温度、常磁性への転移温度が共にバルクならびにモノレイヤーの場合と比べ著しく減少することも明らかとなった。低次元化による軌道磁気モーメントの増大が確認されたが、同時に熱揺らぎの効果も低次元およびナノスケール領域では大きくなり、磁化の大きさが温度の上昇に伴って急激に減少することも分かった。
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