微傾斜表面に金属原子を極微量蒸着し、その蒸着量を制御することによって、金属原子のナノワイヤのサイズや形状を精度良くコントロールできる。本研究では、Au(788)微傾斜表面上にFeならびにNiの1次元単原子鎖あるいは2次元単原子層を構築し、その磁気構造をX線吸収分光ならびに磁気円二色性を用いて調べた。 Feの1次元ナノワイヤのXMCD測定を行ったところ、低温(20K)、強磁場(1.9T)のもとで明確なMCDピークが観測された。そのピーク形状の蒸着量依存性から、蒸着量の減少、すなわち低次元化に伴って軌道磁気モーメントが増大することが分かった。一方、MCDピーク強度は低次元化に伴い減少した。この結果は、次元性の低下に伴う軌道モーメントの復活により軌道磁気モーメントは増大するものの、20K程度の温度領域では熱揺らぎの効果が大きく、トータルの磁化が大きく減少することを示している。ナノワイヤの磁化の温度依存性は原子列の数、磁気モーメント間に働く強磁性的カップリング作用の大きさおよび磁気異方性エネルギーで表すことができ、ナノ構造の形状およびナノ構造内部の原子配列と密接に関連することが分かった。また、ナノワイヤの形状変化に伴って、ナノワイヤにおける磁化反転の機構が変化することも分かった。1次元単原子鎖では、磁壁の移動により磁化反転が起こるが、ワイヤ形状の均一性が失われると、磁壁のピン止めが起こり、ナノワイヤ内ドメインの磁化反転によってマクロな磁化反転が起こることが分かった。 また、金属原子の種類によって磁気構造が大きく変化することも分かった。容易化軸は、Feの場合は表面垂直方向であり、Niの場合は面内方向であった。このようにナノ構造体の金属種や形状、サイズを変えることで磁気異方性や磁化反転のメカニズムを変えることがき、今後のナノスケールにおける物性制御に関して重要な知見を得ることができた。
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