通信のセキュリティー問題は大変重要で身近なものとなり、秘匿通信技術の重要性も非常に高まってきている。現在のコンピューターの計算量に依存するソフトウェア的な秘匿通信手法は、将来の計算機技術の発展に伴い秘匿性を失う危険性がある。そこで物理現象に起因する秘匿通信手法として光カオス秘匿通信などが広く研究されるようになってきた。しかし、従来の光カオス秘匿通信では送信器と受信器の半導体レーザー(LD)のカオス同期を用いており、盗聴者が送信器LDとカオス同期を達成できるLDを用いればメッセージを復号できてしまう問題点がある。 本年度は、この問題を克服する手法として研究代表者らが考案したLD送受信器アレイを用いた秘匿通信手法(Chaotic LD Transmitter Receiver Array法)をノイズに対する影響について数値シミュレーションにより調査した。この結果、本手法は従来の光カオス秘匿通信手法と比べノイズに対して非常に敏感であることが判明した。そのため、このデメリットを克服する方法についての調査を進めた。 本手法のノイズ耐性を強化する方法には以下の2種類が考えられる。第一にLD送受信器アレイを構成する送受信器LDの数量を増やすこと(雑誌論文1)である。この方法では受信したメッセージの復号により多くの時間がかかる。しかし、以下の第二の方法を併用することで復号時間も抑えることが出来る。それはカオスを生成するLD系にフィードバック系を導入することである。これを述べた論文(雑誌論文2及び3)において、戻り光のあるLDをカオス生成に用い、本手法がノイズ耐性があるカオス同期に無依存な秘匿通信が達成可能であることを数値シミュレーションにより示した。 次年度は以上のことを念頭に戻り光のある半導体レーザーを用いて、本手法による光カオス秘匿通信の実証実験を行う。
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