当該年度では、プロジェクト初年度で課題となった多層膜型熱電素子の機能性向上を目的として、以下に焦点をあて研究を行ってきた。(1)ナノ粒子を初期原料として利用したn型層(CaLa)Mn03の機能向上、(2)n型材料としてのLaNi03の利用、(3)ホットプレス温度の制御によるp型Ca3Co409の熱電特性向上。まず、(1)について、(CaLa)Mn03の焼結は通常大気中で1300℃程度を要するが、本研究では初期粒径700nm程度のCa0.9La0.1Mn03を用いて焼結温度と熱処理後の粒径の関係を明らかにした。その結果、900℃程度でもナノ粒子であれば焼結の進行が期待できることがわかった。これを踏まえ、EPD法によりナノ粒子を原料としたCa0.9La0.1Mn03単層膜を実際に作製し900℃での熱処理により多層膜のn型層の熱電特性を大きく上回る機能を実現できた。(2)については、大気中での固溶反応温度が1000℃程度とp型相のそれに近いうえ物質自体の抵抗率が低いことを利用して、n型層としての機能を検証した。焼結密度と熱処理温度の関係は1000℃以下ではほぼ一定であり約70〜80%であった。EPD単層膜の熱電特性は低い電気抵抗を反映して(CaLa)Mn03と遜色のない結果となった。この結果は、n型層の選択として(1)も(2)も好適であることを示している。(3)については、多層膜中のCa3Co409は磁場による配向組織を形成しているにもかかわらず、配向緻密バルクの抵抗率よりも数倍高い問題を抱えていた。当該年度では、磁場中EPDによるCa3Co409単層膜について、ホットプレス温度を変数として焼結密度と抵抗率の関係を明らかにした。その結果、焼結の進行には900℃以上は必要であり、一方で分解温度は大気中では〜950℃であることから適切なホットプレス処理の適用が多層膜熱電素子の機能向上に重要であることがわかった。
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