前年度までの研究によって、臭化タリウム検出器の性能が市販されているテルル化カドミウム検出器を大幅に凌駕することが実証できた。この前年度の成果を受け、本年度は臭化タリウム検出器の実用化へ向けた取り組みを行った。結晶育成においては、帯域精製法による素材の精製回数を1回、100回、300回としたものを用意し検出器を製作し比較した。その結果、100回程度の帯域精製で実用に十分な性能を持つ臭化タリウム検出器を製作できるとの結果を得た。また、信号処理系統を工夫し、詳細な検出器内のガンマ線の相互作用位置を同定することにより、臭化タリウム検出器から662keVのガンマ線に対して1%の分解能を得ることができた。臭化タリウム検出器の実用化への最大の課題は、その性能が時間の経過とともに劣化するポラリゼーション現象であった。本研究により、臭化タリウム結晶に電極材料としてタリウム金属を応用することにより、検出器のポラリゼーション現象を大幅に抑制することができるという知見を得ることができた。また、本研究では、タリウムは他の金属材料とは異なり、臭化タリウム自身を構成する原子であることから、電極において母材との電気化学反応が起こり、検出器の性能が安定するというモデルの構築も行った。以上、本研究では、結晶の育成、検出器製作・評価、信号処理、長期安定動作といった課題を解決し、三次元位置検出型臭化タリウム検出器を完成することができた。本研究の成果は、放射線の高度利用に貢献するものである。
|